はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 151 [迷子のヒナ]

「だったらまずは、今朝届いた書類に目を通したい。探偵に調査を依頼していたんだろう?いったい何を調べさせていたのかは知らないが、彼らは腕利きらしいから、君の知りたい事がすべて報告書に記されていたのは間違いないだろう。違うか?」

そう尋ねたとき、ジェームズはイエスかノーというどちらかの答えを期待していた。

だが適当な間を置いても、返事はなかった。

パーシヴァルは酒に酔ったようにふらりと立ち上がると、虚ろな目にうっすらと目に涙を滲ませ、まるですべてを拒絶するようにゆっくりと首を振った。

「それが目的だったんだな。そうだよね。そんないかにも、出掛ける途中で耳寄りな情報を掴んだからちょっと立ち寄りましたっていうような恰好をしているんだもんな。少しは僕に興味があるのかもしれないって期待する方が愚かだよな」

そんなに傷つく事か?
ジェームズは戸惑いも露に、眉を顰めた。
もともと二人の間に、パーシヴァルの言う期待するような何かがあったわけではない。
こうやって会見を開く理由はヒナの事以外考えられないではないか。それなのに、まるでこちらがひどい裏切りでもしたかのような傷つきようだ。

となると――

「手を引いてもいいっていう話は?」まさか立ち消えになるって事はないよな。

「知るもんかっ!君は僕を傷つけ、怒らせたんだ。報告書は見せないし、手も引かない。僕を弄ぶのはやめろ」

パーシヴァルが激しているのは明らかだった。そんなパーシヴァルを宥める為とはいえ、ジェームズは少々荒っぽい行動に出た。

こちらに背を向け寝室に引き上げようとするパーシヴァルの左手首を素早く取ると、身体ごとひねって引き寄せ、力いっぱい抱きすくめた。

背中が撓りパーシヴァルの顔が自然と上を向く。逃げるのは許さないと、ジェームズは有無を言わせぬ態度で目の前に差し出された唇を難なく奪った。

ジェームズとしては、こういう手を使うのは本意ではない。が、パーシヴァルはこれを求めていたし、冷静に話し合うための前置きとしてはこれが最善だった。

パーシヴァルは逃げるどころか抵抗もせず、あっさりと身を預けた。先に舌を絡めて来たのはパーシヴァル。かろうじて主導権はジェームズが握っていたものの、いつパーシヴァルに奪われてもおかしくない状況だった。

「これでも……まだ……見せるつもりはないと――」キスの合間に伝えるべき事を伝えるやり方はジェームズの得意とするところだが、パーシヴァルが相手だと自分が何を口にしているのかすら分からなくなる。

「っん、く――ダメだ……」パーシヴァルはジェームズの首の後ろに腕を回し、腰を擦り付け、至福の吐息をこぼした。

「このキスは無意味なのか?」

「まさか……そんなはず、ない……でも、君は僕を怒らせた」パーシヴァルはジェームズの唇を軽く噛んだ。僕は怒っているんだぞというアピールらしいが、そんなとろけた顔で拗ねてみせたところで、効き目はまったくない。というわけでもない……。情けない事に。

「君だってさっき僕を怒らせた」ジャスティンの事で怒りの感情を抱いたことを認めるのは容易ではなかったが、パーシヴァルの機嫌を直すためだ、仕方がない。

「ん……」というパーシヴァルの返事は、熱くなり過ぎたジェームズのキスに呑み込まれ、それからしばらく二人が会話をする事はなかった。

つづく


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迷子のヒナ 152 [迷子のヒナ]

長い時間が過ぎたような気がするが、いまだにジェームズは着衣のままだ。

僕の方はすっかり丸裸だというのに。

ジェームズの巧みな誘導によって、お互いが持ちうる情報をひとつ披露することにより、相手の衣服――この場合装飾品も含む――を剥ぎ取ることが出来るというゲームが始まった。

ルールは事細かくジェームズが決めたが、至極公平なものだった。お互いが元々身に着けていた品数の違いを除けば。

パーシヴァルは部屋の中央の肘掛椅子に、裸とは思えないほど堂々と座り、目の前の涼しい顔をしたペテン師に負けず劣らずのすまし顔で尋ねた。

「生まれたままの姿の僕から、何を奪うつもりだ?」

ジェームズの視線がゆっくりと上下し、まるで愛撫のようなその動きにパーシヴァルは全身の毛穴という毛穴から誘惑の香りが発せられるのを感じた。ジェームズに焦らされてばかりのこの身体は、対象相手をどうにか誘い込もうと必死だ。

「もう、なにもありませんね」にべもない。

「じゃあ、もう何も喋らない気か?」

「そちらはどうぞ続けてください。聞き終わったら、次はシャツを脱ぎますから」
シャツのボタンをこれ見よがしにいじくりまわすジェームズに、パーシヴァルはもどかしげに身を捩った。

くっ……またしても、事務的口調。気に入らない。ジェームズは我を忘れ僕を味わったのをもう忘れてしまったのか?確かに引き際はきっぱりてきぱきしていた。こっちとしてはそのままベッドへ直行をと目論んでいたのに、キスと甘い囁き、長い指で身体を撫でまわされているうちに、うっかりここへ座らされていた。

ああ、あの指が股間をかすめたとき。僕は恥ずかしげもなく喘ぎ声を漏らしてしまった。実際恥ずかしくもなんともない。自慢の喘ぎ声だ。誰もがこの声に魅了されるというのに、ジェームズときたら、ほとんど無反応だ。いや、無反応ではなかった。

パーシヴァルは思わずにんまりした。アレが僕の身体に埋まったら……。

「話し中に自慰行為は慎んでもらいたい」ジェームズがぴしゃりと言った。

パーシヴァルはハッとし、手の中の愛らしい一物をそっと股の間に隠した。

ちぇっ。

「はいはい。じゃあ、さっきの続きで……クレイヴン卿が――」

パーシヴァルはジェームズを裸にする事に気を取られ、大切な情報をひとつまたひとつと明け渡していった。あとはズボンと下穿きで丸裸というところまできたとき、ジェームズが次の話を遮って口を開いた。

「いまの話を繋げると、ヒナが巻き込まれた事件を揉み消したのがクレイヴン卿で、その協力者がヒナの祖父でもあるラドフォード伯爵。で、事件を引き起こした諸悪の根源ともいえるその強盗は、すでに別の事件で――なおかつウェルマスではない場所で警察に捕まったと、そういう事ですね」

「そうそう。ついでに言うなら、そいつらはそれ以後の消息は不明。あ、いまのでもう一枚脱いでくれるかな?ほら、その忌々しいズボンを」

「最後のはおまけだろう?」ジェームズがまばゆい笑みを向けた。裸の上半身は穢れた部分などひとつもなく、パーシヴァルの想像通り美しかった。

「ひ、卑怯だぞ。そんな笑顔で誤魔化そうとして……いいさ。君がそう言うなら。僕はとても懐の広い人間だし、このゲームをすごく楽しんだし、このあとも僕に時間をくれるなら、ヒナを然るべき位置に戻すことに手を貸してもいい」パーシヴァルは尻の割れ目のその奥を見せびらかすように、大袈裟な仕草で足を組んだ。

「それはつまり――」

ジェームズの視線はパーシヴァルの目から逸れる事はなかった。パーシヴァルはめげずに足を組み替え、満面の笑みをたたえ言った。

「ヒナを生き返らせるんだよ。法的にね」

つづく


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迷子のヒナ 153 [迷子のヒナ]

ヒナは行方不明者ではなく、すでに死亡扱いとなっているようだ。それが日本の親族の下した決定らしい。異論を唱える者はこちらの国にはいないが、となるとコヒナタ一家はどこでどのようにして死亡した事になっているのだろうか?事故は揉み消されているのだから、当然別の理由が必要なはずだ。

だが――

「それはどうだろうか?ヒナがコヒナタカナデとして、再び世に出る事を望む人間がいると思うか?伯爵はヒナを厭っているし、相続問題で生きていて欲しくないと思う人間はあっちにもこっちにもいる」そこでジェームズは、パーシヴァルに蔑むような目を向けた。「ヒナもおそらく望んでいないし、ジャスティンもだ」

「望むと望まざると、もうそうするしか手はないんだよ」パーシヴァルは気まずげに目を伏せぼそぼそと言った。

「どういう意味だ?」ジェームズは眉を顰めた。

「伯爵はヒナが生きていることを元々知っていたが、今回……ああ、そうだよ!僕が余計な事を吹き込んだから、あいつはヒナをこのままにはしておかない。それに僕は今朝も余計な事をしたから、話はよりややこしくなっている。とにかくあのジジイは秘密裏にヒナを消そうとするよ」
パーシヴァルは声を裏返し、半ば自棄気味に捲し立てた。ジェームズに責め立てられる前に自ら罪を認め、その罪を軽減してもらおうという考えらしい。

「随分と物騒だな。伯爵は殺しもするのか?」

「そこまではしないが、それに近いところまではするかもね。ああ、この際すべてをぶちまけてしまうのはどうだ?」

すべてをぶちまける、か……。
ジェームズとしてはそれが一番手っ取り早いと思うのだが、そう出来ないわけはいくらでもあげられる。

「それはこちらとしてもまずい。それにパーシヴァルだって困るだろう?君は爵位の為にヒナを利用するはずだったんだ、すべてをぶちまけたら、君の計画は台無しになる。ところで、今朝も余計な事をしたと言ったが、いったい何をした?」

「それは言えない。僕だって命は惜しいからね」パーシヴァルは蒼ざめ、首を振った。これにてゲームは終了らしい。

ジェームズは肘掛けに掛けておいたシャツを手にすると、シュッと軽快な音を立てて袖を通した。てきぱきとボタンを留め、サイドテーブルに置いておいたカフスを手に取った。

パーシヴァルはなにがなんだかわからないといった面持ちで、ジェームズが入って来たときと同じく完璧な姿になるのを呆然と見守った。よもや裸で置き去りにされるとは思いもしないのだろう。

上着に袖を通すと同時にジェームズは立ち上がった。長時間座っていたせいで身体が軋んだ。少し前に歩み出て、ほんの少し手を伸ばすだけで触れられるパーシヴァルに暇を告げる。

「では、お互い協力するという方向で」

パーシヴァルが憤然と立ち上がった。
「行くのか?このまま?僕は、僕のこの身体はどうする気だ?」両手を広げ、火照った身体をいまにもこちらへ投げ出しそうだ。

ジェームズはさり気なく一歩引いた。パーシヴァルとの適度な距離を保つのには、毎回苦労させられる。

「誰か呼びましょうか?」我ながらひどい一言だと、ジェームズは思った。この先どうなるかは分からないが、いま現在、パーシヴァルが求めているのが自分だと知っていてこんなことを口にするのだから、パーシヴァルが癇癪を起すのも当然だ。

「な、なんだって!よくもそんな……いいっ!このくらいひとりで出来るから」

「それはよかった。では――」と部屋を出かけて、ふと足を止めた。一度くらいパーシヴァルの希望を叶えてやったらどうだと頭の中の別の自分が囁いた。それも悪くはないが、やはり友人としてはまずは食事からが適当だろう。ジェームズは顔だけ振り向き、野原に捨てられた子供の様に立ちつくすパーシヴァルに向かって言った。「今夜、一緒にディナーでも」

つづく


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迷子のヒナ 154 [迷子のヒナ]

ベネディクトにとって母ニコラは特別な存在だった。
母を愛しているし、母の愛するものも同じように愛すが、ヒナだけは別だ。

他人の屋敷で勝手気ままに振る舞う躾のなっていないあの山猿は、僕のお母様を穢した。
何を思ったのか、おやすみのキスを唇にしたのだ!!

それを見ていたベネディクトは声にならない悲鳴を上げた。驚いたなんてもんじゃない。優しいお母様は雪のように真っ白な頬を赤く染め、照れ笑いでその場を取り繕ったが、不愉快だったに違いない。

ジャスティンのハッと息を呑む声も聞こえた。
そこでやっとあの山猿は自分の犯した間違いに気付いたのかと思ったら、今度はジャスティンにも同じようにおやすみのキスをしたのだ。

それから恐るべきことにこちらにも向かってきた。ベネディクトはパニックになって逃げようとし、座っていた椅子から転げ落ちた。ライナスに笑われ、お母様もぷっと吹き出し――もちろん淑女らしく可愛らしく――、ジャスティンだけは笑わず、あの疫病のような子猿を片手で楽々と抱え上げ、居間から排除してくれた。

「お母様、おやすみなさい」ライナスが椅子から飛び降り、母の頬にキスをして部屋を飛び出して行った。

椅子からおりる必要のないベネディクトも、母の頬に愛情のこもったキスをして、自分の部屋へ戻った。

気分は最悪だった。
今日一日――いや、昨日の夜から最悪だった。明日も最悪だろう。ヒナがいる限り。

あいつをどうにかしないと、おちおち眠れやしない。

文句を言ってやろうとヒナの部屋の前まで言ったが、近侍がまだ中にいるようだったので、時間を置いてまた来ようとひとまず引き返した。
そこで階下へおりるジャスティンと出会った。どうやらまだお母様と話があるようだ。ヒナの行儀の悪さを謝ってくれたけど、ベネディクトは気にしていないふうを装った。これが大人の対応ってやつだ。

それにジャスティンは全然悪くない。

ヒナの部屋から近侍が出て行くのを見届け、ベネディクトはドアをノックした。

間もなくドアが開き、ベネディクトはまたしても驚きに目を剥いた。

「えっ、な、なに?お前着替え中?」

近侍が出て行ったのでてっきり寝支度を済ませていると思ったのに。ヒナはほぼ裸だ。

「違うよ」とヒナ。

どう見たって、着かけか脱げかけの寝間着がかろうじて肩に引っ掛かっている状態で、首から下は丸出しだというのに、着替え中でなければなんだというんだ?

こういうだらしなさが、ベネディクトの一番嫌いとするところだった。こいつは少し注意をしたからといって、絶対聞きやしない。痛い目を見て初めて、自分の行いを正そうと思うタイプだ。しかも思うだけで実行はしない、正真正銘の堕落した人間だ。

「ちょっと入るぞ」ベネディクトは強引に部屋へ入ると、後ろ手でドアを閉め、長身の身体を精一杯伸ばせるだけ伸ばすと、豆粒のように小さいヒナを蔑むように見下ろした。

ヒナは目をぱちぱちとさせ、何か閃いたように口をパッと開いた。それからにっこりして、「ベンもおやすみのキスいるの?」と言った。

ベネディクトはすでに挫けそうになっていた。

つづく


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迷子のヒナ 155 [迷子のヒナ]

すっかりとはいかないまでも寝支度を整えていたヒナは、突然の訪問者を快く部屋へ招き入れた。

実際は怒れるベネディクトが押し入ってきたのだが、てっきりジャスティンが戻ってきたと思っていたヒナはがっかりするのに気を取られ、ベネディクトの怒りには全く気付いていなかった。

「じゃあ、何の用?」

おやすみのキスは求めていないと強く反論され、密かにホッとしたヒナは、ベッドの端に腰掛け、いそいそと寝間着に袖を通した。

「さっきのあれ……なに?」

いったい何のことだろうと、ヒナは首を傾げ考えてみるのだが、ベネディクトが何について尋ねているのかさっぱりわからなかった。

「さっきのあれって?なに?」ヒナはベネディクトの言葉を繰り返した。

「だ、だから、ジャスティンにいつもあんなふうにおやすみの挨拶するのか?」

「ジュスに?そうだけど」おやすみのキスとは別に、特別にキスをすることもあるけど、それはベンには内緒。

「お母様にもした」とベネディクト。歯を食いしばって声を押し殺すように言うものだから、ヒナはベネディクトは歯が痛いのかもしれないと心配になった。

「ニコにもおやすみしないと」特別なキスはなしだけど。

「ほっぺたで充分だろう!お母様の唇はお父様のものなんだぞ!」ベネディクトはいきり立ち、ヒナに掴みかかりそうな程近づいて来た。

ベネディクトを見上げていたヒナは、あまりの至近距離に首が悲鳴を上げそうになった。一度下を向き、首をぐるぐると回し、それからベネディクトに質問した。

「そうなの?だったらジュスの唇はヒナのもの?ベンのは誰のもの?」

「お前、何言ってんの?馬鹿じゃないのか?」ベネディクトは更にいきり立った。が、うまく反論できず、もどかしげに唸り声を漏らした。

ヒナは少しだけベネディクトの言葉を深く考えてみた。

ベンが怒っているということは、ニコにおやすみのキスをしてはいけなかったのだ。もしかして女の人にはしてはいけないのだろうか?きっとそうだ。

「ごめんなさい」ヒナはしおらしげに言った。ベネディクトを怒らせる気は全くなく、ジャスティンと同じようにニコラの事も好きだから親愛の情をこめて軽く唇を触れ合わせたのだ。確かによくよく考えてみると、もしもジャスティンがベネディクトと唇を触れ合わせたら、きっと嫌な気分になるだろうと、ヒナはますます申し訳ない気持ちになった。「ニコの唇はヒナのものじゃないね。もうしないよ」

「別に、わかればいい。けど、ジャスティンとするのもおかしいよ。あれは小さい子供のする事だぞ」

「えっ!そうなの?」ヒナは心底驚いた。そんな決まりがあるとは全く知らなかった。「でもジュスとしたいのに……」とぼやく。

「も、もしかしてさ……お前、ジャスティンのこと――」とベネディクトが言い掛けたとき、噂の主が部屋と部屋とを繋ぐドアから突然入って来た。

ベネディクトは驚いて、ヒナを押し倒すようにしてベッドへ倒れ込んだ。

つづく


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迷子のヒナ 156 [迷子のヒナ]

さすがのジャスティンもヒナを押し倒す甥っ子に襲いかかる真似はしなかった。

けれどそれは相当な自制心を働かせてのことだったのは、誰よりも自分の知るところだ。

ドアを開けたとき、こちらに背を向けベッドの端に座るヒナが目に入った。それからヒナの前に立つベネディクト。一瞬目が合ったような気がしたが、気付いた時にはヒナをベッドに押し倒し、身体を密着させていた。

ジャスティンは二歩ほどでベッドの上に飛び乗って、絡まる二人を見おろしていた。

ヒナはこちらを見上げにっこり笑った。両手を頭上に投げ出し、下半身丸出しで。
ベネディクトはじたばたともがき、身体を起こすと、素早くベッドから遠ざかった。その顔つきから相当焦っているのが伺える。

以前にも似たような事がなかっただろうか?それもつい最近。

ああ、そうだ!
ダンが眠りこけるヒナを無理やり入浴させようとしていた時だ。
そもそも、ヒナの露出ぶりは珍しい事ではない。いくら寝間着の裾が腰までたくしあがっていたとしても、それはいささかだらしないヒナならあり得る事だ。

とんでもない醜態を晒す前に、ジャスティンはベッドから降りた。ヒナに手を差し出し、身体を起こしてやると「寝間着の裾を整えなさい」と保護者然として言った。こうなったら父親の役目を見事に演じきってみせる。

のんびり屋のヒナははぁいと気の抜けた返事をして、むき出しの“リトル・ヒナ”を布地で隠した。

「で、ベネディクトは何をしていた?」この時ジャスティンの心臓は激しく鼓動していた。変に追及してヒナとの関係を勘ぐられやしないかと、ビクビクしていたのだ。

「僕は――」

「ベンはこけたの!」ヒナがぷっと吹き出した。

「こけた?」ジャスティンは懐疑的な目でヒナとベネディクトを見た。そして足元の絨毯にこける要素があるのかどうか束の間見分し、ベネディクトに向かって言った。「絨毯の毛に足を絡め取られたのか?」

ヒナはとうとう声を出して笑った。「絨毯が巻きついたー!」とはやし立て、きゃっきゃと笑った。

ベネディクトは屈辱から顔を真っ赤にし、「ちょっとつまずいただけだ」とすかさず反論した。

「冗談だ」とジャスティンはベネディクトを宥めるように言った。どうやら父親に似て冗談が通じないようだ。「それで?」

「お母様にした事について聞きに来たんだ」とベネディクト。するとヒナが真面目な顔で「女の人にはしちゃいけないの?おやすみのキス。ニコにしたらダメだってベンが……」と訊いた。

「ダメっていうか……お母様はきっと嫌だっただろうって――」

そう言う事か。この奇妙な取り合わせの理由はそれか。
ニコラは嫌がるどころか喜んでいたと言ったら、ベネディクトはショックを受けるだろうな。

「若い男性に唇を奪われたのは久しぶりよ」とニコラは上機嫌でヒナの柔らかな唇の余韻に浸っていた。けどそれだけでは終わらなかった。矛先がこちらに向いたのだ。ヒナが誰彼かまわずキスをするような子になっては困ると、義弟の教育方針に口を出し始めた。まず手始めにヒナとのキスを――もちろんおやすみのだが――禁止された。

こちらとしては従順を装うしかなかったのだが、それもここに滞在している間だけの話。

「ニコラには謝っておいたから」とベネディクトに言い、「ヒナそのことでちょっと話をしようか」とヒナに言って、ジャスティンはチョコレートの箱が積み上げてあるテーブルの前を陣取った。

箱に手を伸ばすと、ヒナが慌てて駆けてきた。ベネディクトはその間にそっと部屋を出ていた。

つづく


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迷子のヒナ 157 [迷子のヒナ]

最近つくづく思うのは、ヒナとパーシヴァルがとても似ているという事だ。

特に欲求の赴くままに行動するあたり……。

それでも、こうやって膝の上でチョコレートを美味しそうに食べているのが幸せというなら、いくらでも欲求の赴くままに行動してくれて結構だ。

ジャスティンはヒナの巻き毛の最後のひとすじをヘアキャップの中に押し入れると、露になった首筋に唇を寄せた。先ほどダンにホットミルクを持って来させたのだが、あいつはずうずうしくも主人にヒナの髪の世話を押し付けて引き上げていったのだ。

ヒナは「んっ……」と感じたような声を漏らしたが、チョコレートの魅力には遠く及ばなかったようで、振り返りもしなかった。

「ヒナ、ひとつくらい分けようという気にはならないのか?」悔し紛れの一言。チョコレートなど欲しいわけがない。チョコレート味のヒナの唇なら大歓迎なのだが。

「どうぞ」とヒナ。素っ気ないが嫌々という程でもない。若干の渋々感は否めないが、それでも好物を共有してもいいという思いはあるようだ。と、ジャスティンは自分に都合のいい解釈をして、かまってくれないヒナの気を惹くため、たった今ヒナが口に放り込んだチョコレートを奪いにかかった。

顎をぐっと掴んで口を開かせると同時に、素早くこちらへ向かせると、舌を差し入れチョコレートをすくいあげた。

ヒナは突然の事に目を丸くするだけで、声ひとつあげられず、まんまとチョコレートを奪われてしまったのだが、文句を言うでもなく、口をへの字に曲げ、下唇を突き出し、目を潤ませてしまった。

もしかしてこれは……泣くのか?

ジャスティンがそう思った時には遅すぎた。ヒナはチョコレート色のよだれをジャスティンの胸のあたりに擦り付けるようにして、うっぐうっぐと咽び泣き、控えめとは言い難い仕草でジャスティンに抗議した。

なんたる失態。
三年も一緒にいるのにまるでヒナの扱いがなっていない。

ジェームズがいればそう叱責することだろう。

まさにその通り。ジャスティンはさっきとは逆の手順で、ヒナの口の中にチョコレートを戻すと、誤魔化しきれるかは不安だったが、チョコレートとキスの両方をお美味しく味わえるように、持てる力を最大限に発揮した。

ジャスティンの膝の上で、チョコレートとともにヒナが蕩けたのは、まさに努力の賜物だ。

つづく


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迷子のヒナ 158 [迷子のヒナ]

ニコラに屋敷に滞在して三日目の朝はとても穏やかで、その日一日が誰にとってもいいものになることを予感していた。

ジャスティンとヒナの目覚めを邪魔するものは何もなかった。

先に目覚めたヒナが、朝の生理現象で大きくなった”リトル・ヒナ”をジャスティンの腰に押し付けようとも、腰に妙な圧迫を感じ、妙に興奮するジャスティンが自然とヒナの上になって腰を振ろうとも、邪魔する者はいなかった。

お互いが寝惚けた状態なのは言うまでもないが、裸で寝る二人にとって、この行為はあまりに危なっかしかった。ともすれば寝惚けたまま、ジャスティンはヒナと事に及ぶ可能性だってあり得るのだ。ヒナの方は経験不足のため、心配には及ばない。

だが、ヒナがあまりにもリアリティのある喘ぎ声を漏らした事で、ジャスティンは心地よい夢から目覚めざるを得なかった。

まずまずの出だし。明らかに欲求不満の二人は、どこにどう捌け口を求めていいのか分からず、悶々としたまま着替えを済ませた。

朝食の席に着く頃にはヒナのスイッチは性欲から食欲へと切り替わっていたが、ジャスティンはもうしばらく悶々とすることとなった。

午後になり、子供たちとジャスティンとで川へ釣りに出掛けた。屋敷の裏手、ブナ林を抜けてすぐの場所だ。ニコラは突き出たお腹の事などお構いなしで、一行が出掛ける直前まで、わたしも行きたいだのなんだのと駄々をこねていた。

しばらく川べりで釣竿を手におとなしくしていた子供たちだったが、ヒナがそこにいてその状態が三〇分ともつはずがなかった。

釣りはいつしか川遊びへと変わり、子供たちのきゃっきゃとはしゃぐ笑い声は、離れた場所でのんびり白ワインを飲んでいたジャスティンの顔を蒼ざめさせた。

平坦な土地柄、川の流れはとてもゆるやかで、水深は深いところでヒナの腰までしかないが、温かな午後といえども水温はまだ低い。

案の定、ひとしきり遊んだヒナとライナスは――ベネディクトは辛抱強く釣りを続けていた――、唇を紫色にして歯をカチカチと鳴らし、岸でブランケットを広げて待っていたジャスティンに飛びついた。二人は一緒にくるまれ、抱き上げられると、様子を見に来た各々の近侍に引き渡された。

その際ヒナは「ジュスがいい!」と駄々をこね、ダンをホッとさせた。主人を差し置いて裸のヒナを抱き上げるなど、そんな身の毛もよだつこと、出来るはずがない。

その日はまさに安寧そのものの一日だった。

ジャスティンは、これこそ自分の求めるものだと、ヒナの問題が解決した暁には、都会を離れることにまで考えをおよばせていた。

だが、夢に見るような幸せが容易く手に入れられるはずもなく、翌日、屋敷全体に暗雲が垂れ込める事となった。

つづく


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迷子のヒナ 159 [迷子のヒナ]

予期せぬ事とは、何の前触れもなく、突然不意打ちのようにやってくるからそう言うのであって、油断しているからこうなるのだと誰かを責めることは出来ない。

けれども、当初ほどの警戒心を抱き続けておけば、この予期せぬ出来事は、回避できたかもしれないと、ジャスティンは後々おおいに後悔する事となる。


ヒナはひとり図書室にいた。

いつものように裸足になってソファの上に足を上げ、立てた膝の上に乗せた本を読み始めたところだった。

というのも、とてつもなく暇だったからだ。
一番一緒にいたいジャスティンは、ジェームズからの手紙に目を通す為、朝食後すぐに自室へ引き上げていった。その際、ヒナも部屋でおとなしくしているようにと言われたが、ヒナは食堂から真っ直ぐにライナスの部屋へ向かった。ライナスは昨日の水遊びのせいで風邪気味らしい。はちみつトーストを手に部屋の前まで来て、ドアをノックしようと拳を振り上げたが、勝手にドアが開き、クマみたいに大きな近侍が部屋の外へ出てきた。ヒナは出っ張ったお腹に突きかえされるようにして、部屋への侵入を拒まれてしまった。

ぷうっと不貞腐れながらも、今度はベネディクトを探して庭園に出た。そこでバックスからベネディクトの不在を告げられた。遠乗りに出掛けたらしい。

ひとりで馬に乗れるベネディクトに尊敬の念を抱きつつも、ヒナはちぇっと零した。

そして最後のひとり、ニコラはライナスの新しい家庭教師の面接中だった。

というわけで、ヒナは昼食までの数時間、ジャスティンの言いつけどおりおとなしく過ごすことにしたのだ。

ヒナが手にしたのはいわゆるロマンス小説だった。主人公が退屈な舞踏会を抜け出し図書室で時間まで過ごそうとするのだが、とんだ邪魔が入るといった出だし。そしてその邪魔者は、なんと、主人公の唇を奪って風のように去って行くという。
ヒナは舞踏会に出た事はないし、風のように去るという人を見た事はないが、たった一度のキスでメロメロになるという感覚だけは知っている。

ヒナは記憶にある数々のメロメロキスを思い出しながら、ページをめくった。

その時ふと人の気配に気付き、顔を上げた。その拍子に膝頭で支えていた本が滑って落ちた。

こちらを見下ろす黒い瞳と、ヒナの焦げ茶色の瞳がぶつかった。どちらも目を離すことなく、しばらくそのまま見合った。

知らない人なのに、なぜか、すごく知っている気がする。
どこで会ったのかよく思い出せなかったので、ヒナはとりあえず尋ねた。

「おじさん誰なの?」

つづく


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迷子のヒナ 160 [迷子のヒナ]

おじさんと呼ばれた男、グレゴリー・バーンズは本来ならばこのような場所にいるべきではなかった。
週末には予定がそれこそ分刻みで組み込まれているし、今日という日も自分の自由になる時間などなかったのだ。
それなのに、こんな田舎の屋敷にいるのは、あの忌々しい自堕落な男、パーシヴァル・クロフトのせいだ。

「おじさん誰なの?」

眼下の少年は訛りの強い言葉を喋った。
その訛りに聞き覚えはなかったが、容姿などから察するに、おそらくこの子が例の子なのだろうとグレゴリーは推測した。いまいち確信が持てなかったのは、聞いていた歳よりも随分幼く見えるからだが、聞いた歳の方が間違いだということもあり得る。なにせクロフトはいい加減な男だ。

「ここはニコの家だよ」と返事を待ちきれなかった少年が言葉を続けた。

「ニコ……」わが妻はそのような名で呼ばれているのか?グレゴリーは生まれて初めて、妻ニコラの前以外でまごついた。他人から気安くおじさんなどと呼ばれたのは初めてだし、困ったことにここで名を名乗るわけにはいかなかったからだ。

というのも、目の前の少年の言う通り、ここはニコラの屋敷で、夫であるグレゴリーといえども好き勝手に振る舞うことは許されていない。

ここへ来ることを事前に知らせていないし――知らせたら知らせたで面倒なことになっただろう――目的を知ったら怒りっぽいニコラは、生まれてくる子供に会わせないなどと言い出しかねない。

グレゴリーは思わず身を振った。とにかく妻は怒らせたくない。

「ここ座る?」
立ったままのグレゴリーに気を遣ったのか、少年は隣の席をぽんぽんと叩き、ついでに足元に落ちた本をソファの上から手を伸ばして拾った。

「何を読んでいるんだ?」グレゴリーは尋ね、ソファに座った。「ところで君は誰だい?」

立て続けに質問された事に戸惑ったのか、少年は本の表紙を見せながら、「ヒナ」と言葉少なに答えた。

グレゴリーは本を一瞥し仰天した。どう見ても子供の読む本ではない。この手の本は少々過激な描写が含まれていて、グレゴリーからすればくだらない読み物以外の何ものでもない。こんな本を子供の手の届く場所に置いておくなど、ここの使用人に口を出す権利があれば、厳しく注意しているところだ。

「ヒナくんは誰と一緒に来たんだ?」グレゴリーはおおよそ言い慣れない、優しい口調を心掛けヒナに尋ねた。

「えっと……内緒。秘密のお出掛けだから」ヒナは顔を伏せ、逆さまの本に目を落とした。

これほど容易く秘密を暴露する子もそうはいないだろう。グレゴリーは確信した。やはりここに我が愚弟がいるのは間違いないようだ。

つづく


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